スプラトゥーン2におけるインタラクティブミュージック
任天堂の誇る新規IP、イカたちがインクで撃ち合うTPS『スプラトゥーン2』。
個人的にもプレイ開始から早600時間、未だに飽きることなく毎日遊んでいる恐るべきタイトルです。
インタラクティブミュージックの定義については後日別記事にまとめる事にしますが、ここでは任天堂の公式サイトより以下文章を引用させて頂きます。
1本のゲームの中には、ゲームのステージや状況にあわせた音楽がたくさんつまっています。通常はその中からそれぞれの場面にふさわしい音楽が流れ、状況が変わればまた別の音楽に切り替わるようになっていますが、時には、ある場面で音楽が流れている最中に、ゲームの状況やプレイヤーの行動にあわせて、音楽そのものを即座に変化させることもあります。そうすることで、プレイヤーの心情、楽しさ・気持ち良さ・緊張感に直接的に寄り添ったサウンド表現を作ることができます。 引用元:任天堂サウンドが大切にしているコト https://www.nintendo.co.jp/jobs/introduction/sound/policy.html
スプラトゥーン2では、対戦中だけでなくヒーローモード(一人用のストーリーモード)や町中においてもインタラクティブミュージックに溢れています。この記事では、動画付きで実例を見て行きます。
スプラトゥーン2におけるインタラクティブミュージックの実例
ここで紹介する動画については、@geekdrumsが収録したものです。この記事は彼とのリーグマッチの後に書き始めました。余談ですが彼はバレスピを、僕はスシと黒ZAPを使います。
イカは音楽の変化もめっちゃ凝ってるし、任天堂はいつもこういう所までこだわって作ってるから気づいて!>>Splatoon2 Interactive Music – YouTube – YouTube https://t.co/ygvdkqBu91
— じーくどらむす (@geekdrums) January 19, 2018
ハイカラニュースでのインタラクティブミュージック
ここで行われているのは2点。
1.ステージ紹介のターンテーブルSEが拍頭にクオンタイズされている
2.ニュース終了時の「ぬりたく〜る テンタクル」部分で音楽が終わるようBGMが遷移している
少し詳しく見ていくと、1.についてはどのタイミングでボタンを押しても2拍分のターンテーブルSE(※)が拍頭に再生されるような仕組みになっています。SE再生のタイミングでメインBGMがダッキングされ、その後すぐにBGMに戻るような仕組みと想像できます。
※イイダが手元のDJ卓を触った時に再生されるトゥクトゥクトゥーン↓みたいな音です
2.については典型的なHorizontal Resequensing(=横遷移)で、Aボタンが押された次の拍頭でAcid Bassがスライドダウンするエンドテーマに移行します。どのタイミングでボタン入力を行っても、BGMに違和感がないような形になっています。一方、2人のキメポーズは音楽を待たずに開始するため、毎回タイミングが少しずつズレる形になりますが、ここで生き物らしさが出ているような感覚があります。
ハイカラスクエアのインタラクティブミュージック
お店やゲームセンターなど、様々な建物が建ち並ぶハイカラスクエア。場所とプレイヤー向きによって再生されるBGMが異なり、それぞれ距離減衰するため、かなり雑踏感があります。どこにいても中央ロビーから再生される4つ打ちキックとスネアが再生されているため、これによって全体としての統一感を保っています。オープンワールド系のゲームでは街に近付くと徐々にBGMの再生が開始されるものが多いですが、ハイカラスクエアの場合は各店舗がBGMの発生源となり、これがごく近い範囲で重なり合うことで複雑なBGMを形作っています。
ショップ画面でのインタラクティブミュージック
スプラトゥーン2では、「ブキ屋」「フク屋」「アタマ屋」「クツ屋」の4つのお店をL,Rボタンで行き来することができ、それぞれに異なるBGMが実装されています。ブキ屋ではオーケストラ・ヒットを使った賑やかなBGM、フク屋ではシンセサイザーのリフを多用したBGM、アタマ屋はギターのアルペジオを中心とした浮遊感のあるBGM、クツ屋ではディストーション・ギターを用いたバンド調のBGMとバラエティ豊かな音楽が用意されていますが、全てBPM(=テンポ)及び調性、メインとなるフレーズは同一です。
0:45辺りから、自分でリズムを取りながら動画を見てみると分かり易いですが、目まぐるしく楽曲を切り替えても全体としてのビート感は変わっていません。また、アレンジの違いが大きく遷移のタイミングが短いため、場面転換の途中に「画面が切り替わるSE」がトランジションとして大きめの音量で挿入されています。
フェス時のハイカラニュースでのインタラクティブミュージック
楽曲の終わり際(0:45〜)に1小節分のブレイクの再生が開始され、そこからシームレスにフェスのBGMに切り替わるような仕組みになっています。これも典型的な横の遷移の仕組みを用いたものですが、「フェスの始まり!」という演出としては非常に効果的です。余談ですが、普段のハイカラニュースと異なり、ここではステージ紹介のオーケストラ・ヒットがクオンタイズされていません。
ヒーローモードのインタラクティブミュージック
個人的に最も良く出来ていると感じるのがヒーローモードの各ステージです。ヒーローモードは「一人用のストーリーモード」という位置付けで、指定されたブキを使って様々な仕掛けの施されたステージを進んで行きます。ステージ途中にはいくつかチェックポイントがあり、ミスをした場合はそのチェックポイントからリスタートとなります。
この動画の1:40〜の最終チェックポイントでは1小節分のブレイク(BGMによって毎回異なるブレイクが用意されている)から半音転調を行うことで、状況に合わせた音楽演出を行っています。
また、スーパージャンプを使って最終チェックポイントに行くステージ以外は、こちらの動画の0:15〜のように即座にブレイクを挟んで楽曲を切り替える仕組みが採用されています。
スーパージャンプは「プレイヤーが操作不能の待ち時間」になるためクオンタイズがし易いですが、この動画の場合はクオンタイズを挟んでしまうと「プレイヤーが自らの操作によって最終チェックポイントに到達したにも関わらず、音楽が変わらない瞬間が発生する」という違和感の原因となります。状況によっては、あえて込み入った手法を取るよりも通常のBGMの切り替えを用いた方が良いという実例です。
ヒーローモード(エリア移動)のインタラクティブミュージック2
ヒーローモードは、フィールドを歩き回ってステージを発見していくというシステムになっています。先に紹介した各ステージに行く前に、まずは5階層に分かれたフィールドを探索します。ここでは縦にレイヤーされたトラックを抜き差しすることでゲームの進行感を演出しています。
- 0:10〜・・・1階層目
- 0:59〜・・・2階層目、フルートやベースのような音色が追加されている
- 1:19・・・ヤカンに近付いた際に一瞬だけステージBGMがレイヤーされている(BGMが漏れ聞こえる演出)
- 1:45〜・・・3階層目、Synth Padなど機械的な音色が追加されている
- 2:50〜・・・4階層目、Synth Bassなど更に機械的な音色が追加されている
- 3:44〜・・・5階層目、Filterを開放していくようなアレンジで派手さが増す
ステージを飛んでいくロード画面があるように見えますが、BGM自体は完全にひと繋がりで再生されており、ずっと身体でリズムを取っていてもビートがズレる事はありません。また、3階層目以降BGMのアレンジとして徐々にシンセサイザーによる音色が増えていくのは、「本作の敵となるタコは機械技術に長けている」という設定があるからです。機械化されたステージに向かっていく演出の一環となっています。シンプルな仕組みながら、効果的な演出です。
ボス戦のインタラクティブミュージック
ボス戦のBGMは3段階に分かれています。2段階目ではオーケストラ・ヒットのレイヤーが追加され、2段階目を倒した瞬間(タコの足が出現する状態になった瞬間)からアコースティックギターのレイヤーが追加され、曲が縦遷移で展開しています。
ラスボス戦のインタラクティブミュージック(ネタバレを含みます)
ラスボスであるタコワサ将軍は、前作に登場したアオリを拉致・洗脳し、ステージ上で歌わせています。それを相方ホタルが救出し、その後2人で歌い出すという展開なのですが、ここでもBGMが途切れることなくイベントシーンが展開されます。
0:00〜0:13はラスボスBGMが再生されていますが、0:13からは『ボムラッシュの夜』へと遷移します。『ボムラッシュの夜』はドラムパートから始まる楽曲構成ですが、歌い始めでホタルの姿が見え、そこからボス戦へと展開するイベントは本作の見どころのひとつです。
終わりに
これまでの内容から、スプラトゥーン2はほぼ全ての画面でシステマティックな音楽演出が施されていることが分かりました。ここでは主に音楽的な要素に注目して書いてきましたが、例えばイカ潜伏中は対戦BGMにLPF(=ローパスフィルター)が掛かる、対戦マッチング中にスティック操作によるFilter改変とピッチシフトなどエフェクトによるアプローチも多分に存在します。
「気付かなかった!言われてみれば確かに!」というものがあったのであれば、それはインタラクティブミュージックとして上手く機能しているということ。神は細部に宿るという言葉もありますが、こうした細かな積み重ねがゲームの体験をより良くしています。
インタラクティブミュージック研究会について
最後に、日夜このようなインタラクティブミュージックについて話しているコミュニティを紹介します。インタラクティブミュージック研究会は@geekdrumsが発起人となって2013年にスタートしたコミュニティで、私@gula_soundも設立当初から登壇したり飲み会のセッティングを行ったりしています。ここ最近は活動が下火ですが、会うたびに「またIM研やりたいね」と話しておりますので、皆様のご支援のもと是非また盛り上げて行けたらと思っています。
facebookグループ:https://www.facebook.com/groups/im.laboratory/about/
関連記事:個人的インタラクティブミュージック研究会速報まとめ http://blog.nine-gates.com/624/
以上、スプラトゥーン2におけるインタラクティブミュージックについてでした。
スプラトゥーン2公式サイト:https://www.nintendo.co.jp/switch/aab6a/index.html 任天堂サウンドが大切にしているコト https://www.nintendo.co.jp/jobs/introduction/sound/policy.html